金融商品取引業者に登録することが目的ではなく、そのあとの業務の運用、そして金融庁の検査で指摘されないことが、会社を長く存続させることに繋がります。
どんな事業も、すぐに儲かる訳ではありません。それは、第二種金融商品取引業者にも当てはまります。何年もかけて、やっと儲かってきたときに、金融庁の検査結果が悪く、顧客が逃げてしまっては意味がありません。ただ、金融庁も闇雲に指摘するわけではなく、法令遵守しているかどうかという点でチェックをします。
しっかり、法律違反や虚偽記載をしていないのに、怒ることはありません。
ただ、営業マンの教育や顧客への勧誘、対外的なパンフレットや契約書などは、かなり詳細にチェックしている第二種金融商品取引業者であっても、意外と見落としがちなのが、「法定帳簿」です。
「法定帳簿」とは、第二種金融商品取引業者が、業務に関連する帳簿書類を作成し、保存している書類のことです。
では、そもそも金融商品取引業者に法定帳簿の作成・保存が義務付けられているのはなぜでしょうか?
金融庁が公表している「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」によれば、
金融商品取引業者の業務又は財産の状況を正確に反映させ、業務の適切性や財務の健全性を検証することなどによって、投資者保護に資するため
とされています。
そして、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」とは文字通り、金融庁が金融商品取引業者を監督するにあたっての考え方や留意点、方法などが、まとめられたものです。
これは、インターネットからダウンロードして、誰でも読むことができます。
ここで、「業務の適切性や財務の健全性」の「検証」とは、監督者である金融庁が行うことを予定しており、後日、金融庁による検査が入る可能性があることをも意味しているのです。
ちなみに、宅建業者の場合も、俗にいう「取引台帳」を事務所ごとに作成して、一定の期間保存しなければなりません。一方、不動産信託受益権を扱う金融商品取引業者の場合における「法定帳簿」とは、自ら作成し、その種類も多く、記載すべき事項も取引に係るものに限られません。
さらに、金融商品取引業者が取り扱う業務の内容によって、作成の必要がある法定帳簿の種類そのものも変わってきます。
たとえば、不動産信託受益権を取り扱う第二種金融商品取引業者の場合で、かつ取り扱う業務内容が不動産信託受益権の売買の媒介であれば、法定帳簿の一つとして「媒介又は代理に係る取引記録」の作成が必要となります。ところが、不動産信託受益権の直接売買や私募の取扱いのみを行う業者であれば、この記録の作成は不要です。
これを聞いて、「書類なんて、ただ作ればいいだけじゃない?」と考えてはいけません。
最近は、金融庁が第二種金融商品取引業者を検査することも多くなりましたが、もし必要な法定帳簿の作成を怠っていることが判明すれば、業務停止などの行政処分を受ける可能性が出てしまいます。この処分内容は、会社名とともに、インターネットに公開されてしまいます。
さらには、悪意を持って、法定帳簿の作成を行っていないとすれば、「1年以下の懲役」もしくは「300万円以下の罰金」に処せられることもあり得るのです。
ここで注意してほしいことは、単純に法定帳簿は作成すればよい訳ではないことです。
法律の要件を満たして、かつ正確に記載されていなければいけません。その記載内容がでたらめだったり、まったく法律の要件を満たしたものでなければ、結果的に行政処分を受けるリスクがあるのです。
そのため、法定帳簿は、専門家の的確なアドバイスを受けながら、必要不可欠なものを漏れなく作成することが必要です。
ここでは、不動産信託受益権を扱う第二種金融商品取引業者を事例で出しましたが、ファンドを取り扱う場合も同様です。いやもっと厳しく、法定帳簿の備え付けが必要となります。